第1章 プロローグ
「いいね~!小雨ちゃん!あともう少し右に首傾けて~…そうそう!はい、そのまま!」
カシャッ
白い背景、季節を先取りした夏のファッション、カメラに向かって笑顔を向ける私。
ファッション系通販サイトのモデル。
これが私の一つ目の顔。
「じゃあこれでラストね~!はいっ!お疲れ様でした!今日の小雨ちゃんアップでーす!」
「ありがとうございました!お疲れ様です!」
被っていた撮影用の麦藁帽子を外し、大きく頭を下げた。
そして足早に撮影スタジオを立ち去る。
この後の予定が詰まっているからだ。
大急ぎで荷物をまとめ、駅まで走る。
ファッションモデルとはいえ一種のバイトと同じ扱い。
名も知れているわけではないのでマネージャーなど付きはしないし、車が出るわけでもない。
私はほぼ毎日、こうして徒歩で移動している。
「よし、オンタイム!」
目的の駅にたどり着き、携帯で時間を確認してから小声で呟く。
足取りも軽く、2件目の仕事場へやってきた。
「お帰りなさいませ、ご主人様。」
これが私の2つ目の顔。
メイド喫茶の店員。
もともとアニメや漫画が大好きで、所謂オタクの部類だったのだが、そういった趣味と仕事を両立させることはできないかと考えた結果がこの仕事だったのだ。
昼間はモデル、夕方からはメイド。
これが私の日常だったのだ。
しかし、出会いは突然にやってきた。