第4章 王子になったシンデレラ
今までメディア露出はこのお披露目が終わるまでしない方向になっていたので、本当に会見以外ではファンの前に姿を現していなかった。
他のメンバーがテレビに出る時には私の話が上ったりもしていたが、私自身が出るということは無かったのだ。
「さ、じゃあ次の曲に参りますか!」
翔君が曲紹介を始める。
みんな立ち居地に移動し、手持ちマイクからヘッドセットへと切り替えた。
ここからはダンスチューンが続く。
これまで必死に練習してきた曲たちだ。
翔君が曲振りをし、暗転したと同時にグッと拳に力を込めた。
やるぞ。
音楽が鳴り始め、体が勝手に動き出す。
たくさんの光、音、声。
全てに気持ちが高揚していた。
練習より激しく踊ってしまう。
でも、楽しい。
心に羽が生えたみたい。
一度着替えの為に裏に捌ける。
その間は、ジュニア達がパフォーマンスをしてくれている。
しかし、その時身体に異変が起きた。
「ッハァ、ハァ、ハッ」
上手く息が吸えない。
苦しい。
この症状は、知っている。
過呼吸だ。
「ハッ、ハッ、カハッ…ッハァ」
こんな時に近くにスタッフがいない。
ブースでうずくまり、そのまま動けずにいると聞きなれた声が振ってきた。
「小雨!?どうし…ッ過呼吸か!?」
目の前がグルグルして、私はもう息ができなくて死ぬのかと思った。
雅君はすぐに近くにあった適当な袋を私の口にあてがい、ゆっくり呼吸するように背中をさすった。
「ッハァ…ハァ…」
「小雨、ごめん、ちょっと手入れるよ?」
雅君はそういうと、私の服の中に手を入れ、手探りでさらしのホックを外していく。
「たぶん、これのせい。」
最後のホックを外し終わると、雅君はそのままさらしを抜き取った。
途端に締め付けが無くなり、体が軽くなる。
「ま、雅君…ありがとう…。」
「俺も過呼吸なったことあるから、気にすんな!あ、衣装さん来た!」
さらしを私に預けると、雅君は事情を簡単に説明しに行ってくれた。
背中に置いていた手が離れるのが少し寂しい。
他のメンバーもただならぬ雰囲気を感じたか、ブースから顔を出している。
雅君は、皆に聞こえるように「もう大丈夫ー!」と大声で伝えている。