第2章 始まりのシンデレラ
ここに来て急遽1曲追加で、しかもダンスが難しい大野さんの振り付け。
歌割りも変更になり、私はまた覚えるパートが増えてしまったが苦にはならなかった。
少しだけ、嵐として認められた気持ちになったから。
「うん、そうそう。1,2…そこでステップ。そう。」
数日後、再び全員で練習があった。
私は大野さんのフリを見ながら身体にダンスを染み込ませていく。
大野さんにダンスのセンスがあると言われたことを思い出すだけで、あと3時間は踊り続けられそうな気持ちだ。
「ん。じゃあ一旦休憩しよ。」
「はいッ…!」
とはいえ汗だくで息も上がっている私。
大野さんは私のペットボトルを投げて、パスしてくれた。
私はお礼を言って、それをグイグイとがぶ飲みした。
「おいら、小雨君のこと、最初すげー嫌な奴だったらどうしよーって思ってた。」
「え…?」
「おいら達、もう何年も嵐として活動してきて、家族みたいなもんだし。それ、崩されるのすげー嫌だったのかも。」
水を片手に、大野さんはいつの間にか私の前に立って、急に真面目な顔で話し始めた。
私は面食らって何も言えずにいる。
「でもさ、小雨君は想像してたより、ずっといい奴。」
「はぁ…?」
「真面目だし、努力家だし、センスもあるし。」
大野さんは一体何が伝えたいのだろうか。
私はその意図を読み取りたくて、彼の目を見つめてみた。
「おいら達、変な意地張ってないで小雨君に歩み寄らないといけないんだよね。
小雨君はもう、こんなに歩み寄る努力をしてくれてるんだし。」
そういうと大野さんは急にしゃがみこみ、私のつま先のあたりにペットボトルをグッと押し付けた。
連日踊りっぱなしで、ターンに妙な癖があるせいか指の付け根にマメができてしまっている私の足は急な圧力に悲鳴を上げた。
「いたっ!」
「へへっ、ごめん。ターンの時、これ庇ってるように見えたから。」
そんなやり取りを聞いて、メンバーの視線が段々と集まってきているのを感じる。
大野さんはそのまま立ち上がると、私をまっすぐに見つめた。
「あの…?」
「これからおいらは小雨君を男として見る。だから、こういうことも自然にできないとね。」
そういうと、大野さんは私の腕を引っ張って抱きしめた。