第2章 始まりのシンデレラ
夏ももう終わりか、という頃。
ツアーが始まるまであと3週間程。
この日は全員でフリ合わせがあった。
音楽に合わせて、踊り慣れている皆さんは軽くステップを踏みながら移動やポジションをチェックしている。
私はまだまだ動きに慣れないため、体力作りの意味も含めてしっかりと踊る。
汗だくになりながら皆さんから指示があればその通りに動き、鏡で確認をする。
「おいら休憩~。」
「私も。」
後半のセットリストを一通り流し終わったあと、水を飲むついでに鏡の前に座り込む大野さん。
そして、それにつられるように一緒になって座り込む二宮さん。
相葉さんは櫻井さんとダンスの確認をし始め、私は松本さんのストイックな練習にまだついていっているところだった。
「そこ、ステップ甘い。」
「はいっ…!」
「ターンはもう少し早く。」
「すみませんっ…ハァッ、ハァッ…!」
私は鏡で動きを確認しながらも、大野さんがすごく私を見つめていることに気付いていた。
何か変なところがあるのだろうか。
ダメならダメで指摘してほしい。
「ね~、松潤?」
曲がいったん終わったところで、しばらく黙って眺めていた大野さんが座ったまま松本さんに声を掛けた。
「んー?」
松本さんは水を飲みながら気のない返事をする。
「小雨君さ、やっぱMC前の1曲も追加で出てもらいたい。」
「え…?」
松本さんは水を飲んだまま特に驚くことも無く、大野さんの提案を聞いている。
というか、驚いているのは私だけのようだった。
「小雨君、ダンスのセンスあると思う。だからあの曲、おいらの振り付けだし、やってもらいたい。」
「だってさ。」
大野さんはもはや私に向かって提案をしていたし、松本さんも水を飲み終わって私の方に目線を投げていた。
「今でも結構辛そうだし、無理ならいいんだけど…。」
大野さんは少し申し訳無さそうに目線を逸らして言った。
私はずっと固まっていたが、急に大野さんが私に期待してくれていることを感じて胸が高鳴ってしまった。
「やります…!やらせてくださいっ!」