第2章 始まりのシンデレラ
嵐のあまりの素っ気無さに私は一瞬言葉を失っていたが、すぐに空気を察知した。
この間は私の自己紹介を待っているのだ。
「あ、あの…気象小雨、です…。よろしくお願いします…。」
なんという重い空気だろう。
私は息をすることさえ憚られるようなこの見えない重圧に、消えてしまいたくなった。
どうしていいか分からず俯いていると、松本さんが口を開く。
「うん、あのさ。見て分かると思うんだけど、俺らあんまり君のこと歓迎してなくて。」
「松潤、言葉選んで。」
「ごめん、翔君。」
一応、私が女だということを考慮してくれているのか、櫻井さんはあまり目線を合わせてくれないものの、松本さんの刺さるような言葉を窘めてくれた。
「あ、あの、私は大丈夫です。続きを、お願いします…。」
これから男社会で生きていくことになる。
今からへこたれていてはすぐに潰れてしまうだろう。
私は少し強がりではあったものの、松本さんが伝えてくれようとしていることも気になって、先を促した。
「あ~…っと、だからさ、俺らも今まで培ってきた“モノ”がたくさんあるわけ。
それはファンだったり、認知度だったり、各界の数字もそうだけど。」
「…はい。」
テレビではそんなこと、絶対に言わない。
だからこそ、刺さる松本さんの言葉。
嵐の皆さんは控えめで、どんなに持ち上げられても決して驕らないと思っていた。
しかし、やっぱりこれが全てなんだ。
「これからは君の行動によってもこれらが左右されてくるの。分かるよね?」
「…はい。」
そう、つまり、私が失態を犯せばこれらの数は下がり、私が女であることがバレれば、嵐はおろか、事務所全体の被害となる。
私が要なのだ。
私が1人悶々としていると、今度は櫻井さんが頭を掻きながら話し出す。
「もう公式発表されてる以上は引き返せない。
だから俺らも、君の事はバレないように守らなくちゃいけない。
だけど、君も“男”になってもらわないと困る。
言ってること、分かる?」
「は、い…。」
嵐の皆さんは自分の保身のため、私は私自身と皆さん、事務所全体のため、これから人知れず、大きな大きな責任を背負わなくてはならない。
戦わなくては、ならない。