第1章 上京する前はこんな子でしたばい
私が家に帰ってくるなり母が私を呼びました。
「千花夏は今度の学校さ面談どないすっと?」
「どないすって?」
私が聞くと母は学校から届いたプリントをを見て溜息をついた。
「将来のことも決めとかんと大学行くんやろうし?専門学校とかでもいいんならいいさ。でもあんたも高校3年生やろ。はよ決めて勉強した方が良かね?」
「お母さん。そのことなんけどさ。私は将来の夢は決めとるとよ。」
「なんな?言いてみ?」
「私は日本一の女芸人になるとばい。今さっき決めたとよ。だから高校さ卒業したらお笑いの養成学校さ行くね。」
私の目は本気でした。
「この子は何を言っとると?そんなんの無理かね。お笑い学校さ月謝はいくらするとね?そういうの調べんといかんとよ。お父さんが帰ったら聞いてみるばいね。」
「お母さん、私の話聞いとると?私は本気で言っとるね。信じてくれても良か。」
私はお母さんに問いただしたが”私じゃ決め兼ねる”とだけ言って台所の方へ行ってしまいました。
夜になり私が夕食を済ませた頃に父が帰ってきました。
「お父さん。お帰りさ。」
「ただいま。今日さ会社の同僚が”うちんインテリアは、ゴミ置き場かっがめてきたもんばかったい”って言ってたけんね。」
父は鞄を玄関に置くと居間に入ってきました。
すると母が学校から配られたプリントを父に見せてため息をつきました。
「母さん。どうしたと?千花夏の成績が悪とかばい?」
「そうじゃないとよ。娘にさ聞けばいいね。」
母は居間の畳の上に座りました。
「千花夏!今度の学校との面談の話だけどな。将来の夢は決めたと?」
「そげんことだけどな。私は日本一のお笑い芸人になるって決めたけん。だから高校さ卒業したら・・・。」
私がそう言いかけた時父がテーブルを拳で叩いて叫びました。
「自分が言ってることが分かっとると?芸人っていうのは売れなきゃ金さ入ってこんとよ。わかって言ってるさね?」
「そんなのわかっとると。でも私は決めたんよ。絶対諦めけんね。私は普通の人生さ送りたくなかっ。どんなに辛くても努力すればなんでもなるさかい。」
私は必死に反撃しました。
「おめさ、精密工業で働くとチラシもらってきたね。どうするだ?」
父が私に掴みかかってきました。
「そんなのいらんよ。私は芸人さなるさ。なんで分かってくれないとね?」
父と私の言い争いはしばらく続きました。