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愛されたい症候群。

第12章 あの日からずっと立ち止まったまま



「にしても、こんな狭くてぼろい所にしか
住めないのね。相変わらず可哀相ぉ」

「帰ってください」


会話なんてする気はさらさらない

睨まれて一瞬だけ背筋が震えたが
悟られないように、睨み返す


「働いてるからって偉くなったつもり?」

「さっさとお引取り願えますか。
何しに来たか知らないですけど」

「嬉しい報告をしに来てあげたの」


この人と関わって嬉しかったことなど
今まであっただろうか

あるわけがない


厭らしい赤い唇をつり上げながら
カラーコンタクトをつけた瞳が
私をとらえている

一生、逃げられないと
呪いをかけられているみたいだ


「聞きたくありません」

「はい、そうですか。なんて
言うと思う?」


私の表情を見ながら嬉しそうに
しているのがたまらなく腹立たしい


「私ね」

「聞きたくありません!!」

「景吾と結婚するの」


何を言われるか、なんて
想像はついていた

だけど、それを実際に言われれば
重みや現実味は違うわけで


もう二度とこの人の前で
涙はながさない
ながすもんかって決めたのに


「プッ…。泣き顔までブスなんて
救いようがないわね」

「言いたいことは、それだけですか」

「あぁ、そうそう。
式には来ないでね?
辛気臭くなるのは嫌だもの」


招待するわけないけど

そう言い残し、笑いながら
姉は出て行った



きっと私の反応は彼女が望む
反応だったのだろう

涙が出てしまったことに
自分でも驚いている


「はぁ…バッカみたい」


つくづく自分が嫌になる

弱くて脆くて
昔のまま変わらない

私だけがあの日からずっと
立ち止まったままだ







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