第8章 嫉妬
メルディアと別れ、ローは急ぎ船に戻った。
モモの様子が気になったからだ。
メルディアからは海軍の動向や革命軍のことなど、有益な情報を得ることができた。
しかし、そのためにモモに辛い思いをさせてしまったのではないか。
ハシゴをつたって船に上がると、デッキでベポが大きなイビキをかいて転がっていた。
これで船番をしているつもりなのか、怪しいところだ。
とりあえず、サボりクマは無視して船内に入った。
船の中には、途中で別れたシャチはもちろん、モモの後を追わせたペンギンの姿もない。
もしかして、まだ戻ってないのか…と心配したが、船長室から漏れる明かりが、モモの存在を教えてくれた。
ガチャリ
ドアが開く音に、モモは本から顔を上げた。
「あれ、おかえりなさい。早かったのね。」
もしかしたら今夜は帰ってこないと思ってた。
「…ああ。」
それだけ答えるローに、メルディアとはあれからどうしたのか、なんて聞けない。
聞いちゃいけない。
サクリと手元のクッキーをかじる。
「なんだ、それ。」
今かじったクッキーのことを聞いているらしい。
「ああ、これ? 薬屋さんでもらったの。薬草入りのクッキーだって。」
真緑色のクッキー。
あまり美味しそうとは言えない。
「子供に喜んで薬を服用してもらうために…って店主さんが考えたんだって。良い方法だけど、ちょっとね…。」
正直、味も美味しいとは言えない。
興味が湧いたのか、ローが近寄ってきた。
「食べてみる?」
「ああ。」
クッキーをひとつ摘み、ローに差し出す。
受け取るのか、と思われたローの手は、そのままモモの手首を掴み、指ごと口に運ぶ。
指先に唇の柔らかさを感じた。
「…マズイな。」
「………。」
予想外の行動に、思わず固まる。
ハッと我に返り、掴まれたままの手を乱暴に引き抜いた。
「自分の手で食べて…ッ。」
赤くなってなるものか、と自らもクッキーを口に放り込む。
マズイ。
でも、考え自体は悪くないと思うのだ。
これが美味しかったら子供も薬と知らず、喜んで食べることだろう。
「配合する薬草が悪いと思うのよね。もっと、桂皮とか棗とか、香りの良いもので…。」
モモの顔は、もうすっかり薬剤師の顔だ。