第40章 深海の島と海の森
深海10000メートルを超える海の底は、一切の光が遮断された暗闇の世界だった。
こんな真っ暗闇ではどちらが前か後ろもわからない。
いつ巨大な海王類に襲われるともしれない深海で、こんなに無防備でいいのだろうか。
モモがそんな不安を感じたとき、船の先端から強い光が放たれた。
「わ、眩し…。」
光を蓄える特性を持つ空島の貝で作られたライトは、暗い海底を照らし、進路を導いてくれる。
そうだ、この船はもともと潜水艦。
普通の船よりも、暗闇に備えがあって当たり前なのだ。
しかし、照らされた先は、見なければ良かったと後悔するようなモノ。
初めは、洞窟かと思った。
なぜ海の底に洞窟が…?
そんなふうに思っていたら、その洞窟には鋭い牙のようなものが生えていて…。
あれ、これって洞窟じゃない…?
そう理解した途端、全身から血の気が引くのを感じた。
「ひ…ッ」
「どわーッ。回避、回避ー! 全速力で!」
モモが息をのむのと、クルーたちが全力で船を動かしたのはほとんど同時。
目の前の洞窟は…、いや、洞窟だと思っていたものは、巨大アンコウのパックリと開いた口だったのだ。
船が飲み込まれる…! と思った瞬間に、エンジンがフル稼働し、スクリューがギュルギュルと激しい音を立てる。
「みんな、掴まってー!」
ベポの声が響くと同時に、船は大きく旋回し、ギュンと勢いよく加速した。
「きゃ…ッ」
急な展開に、モモの残念な運動神経はついていけず、船のスピードに置いていかれた身体が宙を浮く。
最近、こんなのばっかり…!
転がったり、落ちたり、妙なデジャヴがモモを襲った。
しかし転がるのがデジャヴなら、その後の展開もやっぱりデジャヴなわけで。
ガシリ…!
逞しい腕がモモを支えた。
振り向かなくても、ふわりと漂う消毒液の匂いと、派手派手しいタトゥーが誰の腕かを教えてくれた。