第40章 深海の島と海の森
「うわぁ、海の中って…こんなふうになっているのね。」
みるみるうちに沈む船のデッキから、モモは大口を開けながら深海を見回した。
深海なんて、初めて見る世界。
全てが新鮮に思えて、瞬きする時間すらもったいない。
「見て見て、コハク! 大きい顔の魚がいるわ!」
「うん。」
「あッ、あっちには光るクラゲ! 発光成分はなにかしら?」
「そうだね。」
キャッキャッとはしゃぐモモとは対照的に、コハクはいたってクールだ。
「おい、コハク…。もうちょっとモモのテンションに付き合ってやれよ。」
ひとりではしゃぐモモが可哀想に思えて、彼女に聞こえないように、シャチはついつい口を出してしまう。
「そんなこと言ったって、潜水してから何時間経ったと思ってんだよ。」
確かに。
潜水を始めてからすでに3時間は経過した。
いくらデッキが360度見渡せる深海水族館になったとは言っても、3時間も経てば子供といえども飽きがくる。
それなのに、モモはずっとあのテンションだ。
「たぶん、魚人島に着くまであのノリだと思うよ。なんなら、シャチが付き合えば?」
「う……。」
言われてみれば、あのノリにずっとついてくのは難しい。
母の性格を熟知したコハクは、低リアクションこそがモモと長く付き合う秘訣だと教えてくれた。
「お前らって、どっちが親かたまにわからなくなるよな…。」
「よく言われるよ。」
シルフガーデンでは、モモの様子を見るのは常にコハクの役目だった。
しかし、仲間が増えた今、危なっかしいモモの世話を焼くのも、政府や海軍から守るのも、コハクひとりの役目ではなくなった。
むしろ、その役目は自分ではない誰かのものになろうとしている。
チラリと視線を後ろに向ければ、ゴロリと転がって居眠りをするベポに寄りかかり、本を読むローの姿がある。
けれど、そんなローの眼差しが、時折モモに向けられるのをコハクは気づいていた。
今まで、モモの1番近くにいたのは自分だ。
だから、そのことに気がつかないわけがなかったのだ。