第7章 昔の女
アイフリードの一件以降、船は順調に進んだ。
「みんな~、島が見えたよ!」
ベポの声に、全員が看板に上がった。
「おぉ! 今回の島は大きいな、モモ、きっと美味いものがいっぱいあるぜ!」
モモは嬉しそうにコクコク頷いた。
「…モモ、喋れって。」
「あ…。」
先日、12年ぶりに言葉を取り戻したモモだったが、長年の癖が抜けず、つい心で返事をしてしまうのだ。
「そんなんだと無口キャラになっちまうぞ。」
「えぇっと、楽しみ…ね?」
それから、それから…。
(言葉にするって、意外と難しい…!)
「まあ、徐々に慣れていこうな。」
「…ごめんね、シャチ。」
ポンと優しく頭を叩かれる。
「…オイ。」
後ろから掛けられたらローの声に、シャチはビクリと跳ねる。
「あ、船長! スミマセン、触ってないです。スミマセン。」
「…?」
シャチがなにに対して謝ってるのかわからない。
「…フン。島に着いたら、しばらく自由行動にする。だが、あんまり羽目を外しすぎんなよ。」
「「ぃよっしゃー!!」」
船上に歓喜の声があがる。
「久々にハジケるぞー! まずは女を買ってー、…っと。あ、ごめん、モモ。」
「ううん。」
ふるふると首を振るも、さっきより距離が若干引いている。
『女を買う』
その意味がわからないほど、モモは子供じゃない。
(男のひとだもん、当然よね。…ローも、買うのかな。)
ズシリと胸が重くなった。
チラリと彼を窺うと、目が合ってしまう。
「なんだ。」
「…なんでもない。」
そういえば、ローはあれ以来、自分に触れてこない。
島に着くから必要がなくなったのかもしれない。
(良かった、じゃない。)
あんな恥ずかしいこと、もうしなくてすむのだ。
(そう…良かった…。)
頭の中とは裏腹に、気持ちはどんどん沈み、悲しくなっていく。
「モモ? どうかした?」
ベポが様子に気づいて声を掛けてくる。
「…どうもしないよ? 街、楽しみだね!」
たくさん買い物をしよう。
新しい薬草の種や、生薬など欲しいものはたくさんある。
無理やり気分を浮上させようとした。
「そうだね。…メスのクマ、いるかなぁ?」
「「いるわけねェだろ!」」
「スミマセン…。」