• テキストサイズ

セイレーンの歌【ONE PIECE】

第35章 歌とぬくもり




すやすやと安らかな寝息が聞こえる。

モモは薬を擂る手を止め、静かに立ち上がった。

そして、テーブルに突っ伏して眠るローへと近づく。

型くずれしないように、帽子を取ってやる。

すると、ぐっすりと眠るローの顔がよく見えた。

彼の寝顔を見るのは、本当に久しぶりだ。

あの頃は当たり前のように傍にあったものが、今は奇跡みたいに貴重なものだなんて想像もつかなかった。

好きな人の傍にいる。

それがこんなに難しいことだなんて、知らなかった。


『君の…傍にいるから』

今唄った歌詞の一文は、モモの願望のようなもの。

きっとローは、そんなこと必要としていない。

わかっていても、願うくらいはいいでしょう?

コハクによく似た、少しクセのある黒髪を撫でる。

「んん…。」

するとローは、ほんの僅かに身じろぎ、こちらに顔を向けた。

そんな彼を可愛いと思い、唇に口づけたくなる。

少しだけ、そうしてしまおうか…という悪い考えがよぎったけど、モモの理性がそれを止める。

今の彼は、モモのものではない。
彼には、愛する“誰か”がいるかもしれない。

その事実がモモの欲求を抑えつける。


ごめんなさい。
でも、おでこならいいでしょう…?

どこにいるとも知れない“誰か”に謝り、結局モモは溢れる想いを止められずに、ローの額にキスを落とした。

唇に触れた彼の温もりが、涙が出るほど甘い。


「…ヒスイ、ローをベッドに運ぶの、手伝ってちょうだい。」

名残惜しそうに唇を離すと、ヒスイに頼んでローをベッドへと運んだ。




久しぶりに夢を見た。

妖精の夢。

その妖精と一緒にいた自分は、とても幸せだった気がする。

しかし、気まぐれな妖精は、どこへでもフワフワと飛んでいってしまう。

捕まえたい。
離したくない。

そんな欲求が芽生え、手を伸ばす。

すると妖精は、無邪気に笑って、ローの額にキスを落とした。

その温もりが、ドキリとするほど恋しくて、喉から手が出るほど強く求めた。


欲しい、欲しい…。

額に残る温もりが…消えない。



/ 1817ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp