第30章 宝よ眠れ
行かせ…ねェ…。
もう、名前もわからない彼女の腕を、必死に掴んだ。
だけど、どうしてそんなに必死なっているのかと、わからなくなる自分がいる。
『いつまでもあなたを愛したまま、未来の続きを探した。』
金緑色の瞳をした、美しい女。
……誰だろう。
穴だらけになった記憶。
でも次第に、穴が空いていることすら忘れてしまう。
『これほど怖いものなんてないんだ、わたしにだってわかってるわ。』
涙に濡れた目元を拭ってやりたい。
そう思ったけど、身体が怠くて動かない。
力いっぱい掴んだはずの手ですら、解けていってしまう。
スルリと落ちる手を、今度は彼女が握った。
そして、涙に濡れたまま、眩しい笑顔を見せる。
(……美しいな。)
【愛してるわ、ロー。】
そんなことを囁いたのは、いったい誰だったか。
フワフワと気持ち良くなっていく。
目の前の笑顔ですら、霞んでいくほど…。
『悲しんでられないでしょう…?』
おやすみなさい。
深く深く眠れ、わたしとあなたが築いた宝物。
ゆっくりと瞳を閉じる彼の唇に、最後のキスをした。
さよなら、わたしの最愛の人。