第30章 宝よ眠れ
船は順調に進み、目的地のシルフガーデンへ向かっていた。
「風向きがいいんだよねー。これなら予定より早く着くよ。モモ、楽しみだね。」
「うん。」
ベポからあと数日で到着する旨を伝えられ、モモは笑顔を返した。
吹く風は、追い風。
まるでモモの決意が変わらぬよう、後押しをしてくれているようだ。
残り数日、悔いのないように過ごしたい。
それにはまず、やらなくてはいけないことがある。
「シャチ、少しいいかしら。」
「んー、どした?」
男部屋を覗き、釣り竿の手入れをしているシャチに手招きした。
「今、手は空いてる?」
「ああ。なにかあったのか?」
「なら、一緒にお昼ごはんを作りましょう。」
「……は?」
有無を言わさずガッシリと腕を掴み、ニコリと微笑んだ。
「わぁ、シャチ…料理上手いじゃない。」
心の中で「思っていたよりも…」と付け足すが、やる気が落ちると困るので、言わないでおく。
「まぁなー! 俺、釣った魚とか捌くし、ペンギンよりかは上手いぜ。」
ベポは毛皮が不衛生なので、競争相手から除外だ。
「シャチって、手先が器用だものね。」
「そうだよ、戦闘じゃアイツの方がちょっとデキるけど、こういうのは俺のが得意なんだから!」
少し褒めるとおもしろいくらいにテンションが上がり、任せろ! と胸を叩いた。
(なんだか…申し訳ないくらいに扱い易いわ。)
日頃は気難しいローを相手にしているため、簡単に手のひらで転がるシャチが可愛く思える。
「けど、なんだって料理なんか…?」
いつもはろくに手伝わせてくれないくせに、急に手伝って欲しいなんて少し変だ。
いや、頼ってくれるのは嬉しいのだが。