第28章 心の痛みを
それからしばらくして、いつまでも寝こけるベポを文字通り叩き起こし、モモたちは船へと戻った。
「よし、出航するぞ。」
「「アイアイサー!」」
ローの号令と共に船の錨が上がった。
幸い、追っ手らしきものは見当たらない。
このまま安全に海へ出られそうだ。
ゆっくりと動き出す船から、いつものように島へお別れをしていると、森の茂みがガサリと動く。
「あ……。」
目を凝らしてみると、木陰に身体の2割程度を隠した青鼻のトナカイが。
(だから…、隠れてないってば。)
きっとモモを見送りに来てくれたのだろう。
だから、彼に向かって大きく手を振った。
「さようなら!」
チョッパーは声に気づいてビクリとし、慌てて木陰に引っ込んだ。
しかし、しばらくすると、またそろそろと顔を出し、控えめながら手を振ってくれた。
(さようなら、チョッパー。あなたがいつか、海に出られる日を祈ってるから。)
そうして世界を知った彼は、きっとローのように、立派な医者になることだろう。
彼と再び会うことは、もうないのだろうけど…。
「誰に手ェ振ってんだよ。」
傍に近づいてきたローが不思議そうに尋ねる。
「トナカイよ、友達になったの。」
「クマやらトナカイやら…、お前の友達は動物ばっかりじゃねェか。」
「そんなことないわ。メルも、ホーキンスさんもいるもの。」
モモは僅かばかりな人間の友達の名をあげた。
「メルディアはともかく、なぜそこに あのバジル屋が入る。」
なぜと言われても、ホーキンスはモモにとって、もう友達と言っていいくらいの存在なのだ。
でもそう思っているのはモモだけだろうし、あまり良くないだろうか。
「やっぱり勝手に友達にしちゃうのは、ずうずうしいかな?」
「ずうずうしいだろ。」
すかさず言われてがっくりする。
「そ、そうよね…。わたしなんかの友達だなんて…。」
「イヤ、男の分際でお前の友を名乗るのがずうずうしい。」
え…、そっち?
ローの中では、男女間の友情など、成立しないようだった。