第4章 ホワイトリスト
声を掛けてきた女は、ひと目見ただけで普通の女ではないと感じさせた。
まずは容姿。モモと同じくらいの年頃に見えるのに、マントのフードから覗く、たっぷりとした髪は見事なまでの白髪。
紫水晶を思わせる色合いの瞳は怪しく輝いている。
そして肌は『青い』と表現しても良いぐらい白かった。
「まったく、迷惑だの。私もあまり目立ちたくはなくてな、この海兵の多さにはほとほと困っておる。」
彼女は愛らしい顔とは裏腹に少々古めかしい言葉遣いをする。
また、小柄な体躯とは似つかわしくない太刀を一振り携えていた。
怯えるように彼女を観察していたモモの金緑色の瞳を彼女が捉えた。
「ほう…。珍しい、そなた『セイレーン』か。」
ビクリと反応して、逃げ出そうと立ち上がるモモを、「まあ、待て」と引き留めて宥める。
「私はそなたの敵ではないよ。味方でもないがの…。同じホワイトリストの仲間だ。」
(…ホワイトリスト?)
「なんだ、知らぬのか? 哀れな…。では自分が何故に追われるのかも、わからぬのであろうな。」
(あなた、わかるの?)
モモの教えを請う眼差しに、彼女は頷いてみせた。
「海軍には、ホワイトリストという世間に出回らない手配書がある。リストに上がる人物はたいてい海賊でも悪党でも何でもない、ただの人間だ。」
(ただの、人間…。)
ただし、と彼女は付け加える。
「その人物はたいてい付加価値がある。セイレーン、お前のようにな。」
「!」
彼女はモモの能力を知っているかのように答えた。
「そういう人間というのは、海軍にとって、政府にとって、絶好の研究対象なのだよ。それはお前もわかっておろう?」
捕まればマウスのような実験動物になる。
それはモモもよく理解していることだ。
「ホワイトリストには懸賞金がない代わりに、捕獲者に多大な評価が与えられる。言わば出世できるということだの。」
それは海兵にとって、金よりも重要なこと。
「そしてホワイトリストにはランクがあっての。ランクに応じて評価が大きく変わるのだ。」
最低ランクのEから始まり、最も高いランクはSだと教えてくれた。