第22章 可愛いひと
しばらく歩いたのち、ローはとある建物に入った。
「…いらっしゃいませ。」
お店だろうか、やけに愛想のない声にモモは訝しんで顔を上げた。
なんだかとても変なお店だった。
受付と思わしき場所には小窓があり、その向こうに声の主がいるようだ。
しかし、その小窓ですらカーテンで仕切られており、これでは互いに顔を確認することができないのではないか。
なんとも接客のしづらそうな作りである。
「2名様…、お部屋はいかがなさいますか?」
部屋?
ここはいったいなんのお店なのだろう。
「今空いてる部屋で一番上等なやつにしろ。」
こんなにおかしな接客だというのに、ローは気にする様子もなく注文をした。
「かしこまりました。…最上階のお部屋にどうぞ。」
カーテンの奥からスッと手が伸び、鍵が差し出される。
ローはそれを受け取ると、さっさと店に設置された簡易水力エレベーターに乗り込んでしまう。
「ねえロー、ここはいったいなんのお店なの?」
ローはまだ怒っている様子だったけど、エレベーターで待つ間、堪りかねて聞いてみる。
「……宿屋だ。」
「宿屋?」
それなら部屋がどうのっていうのにも納得だが、ここはモモが知る宿屋とはだいぶ雰囲気が違って思えた。
「でもなんか、この宿屋ちょっと変じゃない?」
エントランスも薄暗いし、フロントの人間は愛想どころか顔も見えない。
「……。」
モモの問いにローはなにも答えない。
(そんなに怒っているの…?)
そりゃあ、迷子になって心配を掛けたのは悪いと思っている。
だけど、モモだってずいぶんヒドいことを言われた。
ホーキンスに尻尾を振ってるだの、手を離したら彼のところへ行くだの。
思い出すとムカッとするが、元来モモはいつまでも怒り続けられる性格ではない。
もうそれについて怒っていないし、自分も謝ったのだから許して欲しい。
「…無視しないで。」
抱え上げられた体勢のまま、彼のあごヒゲをちょいと引っ張った。
「…うるせェな、すぐにわかる。」
ローが鬱陶しそうに顔を振ったところで、エレベーターが最上階に止まった。