第19章 水の都へ
エースと別れ、島を出たあと、ハートの海賊団の船は月明かりを頼りに静かな海を進んだ。
「わぁ。見て見て、ロー。海からなにか光が出てるわ。」
海面からポツポツと小さな光が浮かびでている。
「ああ、海ホタルだな。」
「海ホタル…?」
「その名の通り、海に住むホタルだ。暖かい海域にしか出ないから、夏島が近いのかもな。」
へえ、とモモは興味津々で海面を覗き込む。
言われてみれば、ふんわりとした優しい光は川辺で生きるホタルそのもの。
海に生息するホタルもいたとは驚きだ。
この広い海には、まだまだモモの知らないことがたくさんある。
どんどん増えていく幻想的な光に目を奪われた。
「…綺麗ね。」
ふと隣のローを見ると、彼はなにかを想うように、じっとホタルの光を眺めていた。
「ロー?」
「…ん、ああ。」
「どうしたの?」
いつもの彼らしくない。
「もしかして、まだ具合が悪いの?」
毒素が抜け切れていなかったのだろうか。
心配になって、その顔を覗き込む。
「心配すんな、そういうんじゃねェよ。」
モモの額をコツンと小突いた。
「眠っていたときの夢を思い出しただけだ。」
「夢…?」
「ああ。」
幸せな夢。
故郷のフレバンスで、父と母と、そしてラミと。
だけど、そこにモモだけがいない。
ローは幸せな家族との夢より、モモのいる厳しい現実を選んだ。
父と母は、ラミは、そんな自分を責めるだろうか。
「夢から覚めるとき、ラミが笑った気がするんだ。けど、そりゃ 俺が作り出した都合のいい幻だろうな。」
ラミは確かに言った。
「いってらっしゃい」と。
それがローの作り出した妹であっても、救われた気がするのだ。
「わたしは、幻じゃないと思うな。」
黙って話を聞いていたモモが静かに言った。
「ラミちゃんは、ローを恨んでなんていないし、心配してると思うよ。」
「なぜ、そう思う?」
だって、自分がローの居場所を見つけ出せたのは、きっと--。