第16章 炎の男
「モモ、お前はここで待ってろ。」
エースはガスマスクを片手に言った。
「えッ、どうして? わたしも行くわ。」
この先にローがいるのだ。
じっとなんてしてられない。
「こっから先はなにがあるかわからねぇ。それに、毒素だって充満してる可能性だってあんだ。」
ガスマスク無しで、モモが無事でいられる保証はない。
「お前の仲間は、必ず俺が助けるから、ここでおとなしく待ってろ。」
「でも--」
それでも食い下がりたい気持ちをグッと堪えた。
エースの言うとおり、この先は危険だ。
戦力にもならない自分がついて行っても、足手まといになるだけ。
「……わかった。」
冷静になれと自分を抑えつけて、なんとか返事を絞り出した。
「わかってくれて、ありがとう。」
ポンと頭を撫でられる。
自分の無力さが悔しくて、ギュッと唇を噛んだ。
「そんな顔、すんなよ。…なんかお前、俺の弟に似てんだよな。」
「お、弟…?」
失礼な。
エースとは同い年だし、せめて妹とかにして欲しい。
「あァ、その向こう見ずで突っ走るところが特に。」
「わたし、向こう見ずでも突っ走ってもないけど…。」
どうだかなァ、とエースは笑った。
だから、つられてモモも笑う。
「まァ、ちょっと待ってろよ。すぐにお前の仲間も助けてくるから。その間、さっきの話のこと、考えとけよ。」
「さっきの話って?」
「俺のところへ来いって話!」
ああ、さっきの勧誘話…。
「だから、それは断って--」
「じゃ、ちょっくら行ってくる!」
モモの返事も聞かずに、エースは地下への隙間へ飛び込んでいった。
「あ、ちょっと…。もう、せっかちね。」
すでにいなくなってしまったエースを見送って、モモは樹の根に腰を下ろし、ローの帽子をそっと撫でた。
ロー…。
今、あなたはどこでなにをしているの?