第16章 炎の男
夢を見た。
幼い頃の、懐かしい夢。
「ねえ、おかあさん。どうしてみんなの前で歌をうたっちゃいけないの?」
「モモ、私たちの歌は、みんなが唄う歌とは違うからよ。」
「ちがうと、うたっちゃいけないの?」
「人はね、自分と違うものを怖がり、拒絶する生き物なの。…残念だけどね。」
モモにはわからなかった。
人はひとりひとり違う生き物なのに、どうして自分たちだけが受け入れてもらえないのか。
「わたしは、こわがったりしないよ。」
例え、どんなに自分と異なっても、差別したり、拒絶したり、絶対しない。
「そうね。モモ、優しい子。あなたはずっと優しい子でいて。その優しさは、きっと誰かの力になるわ。」
こんな運命を背負わせてごめんなさい。
そう言って母は悲しそうに笑う。
母はどうしてそんなに悲しそうにするのか、このときのモモには、まだわからなかった。
「……ん。」
パチパチと燃える薪の光でモモは目を覚ました。
なんだか懐かしい夢を見た気がする。
(どんな夢だったかな…。)
夢の内容を思い出そうとしたところで、モモは自分が誰かの膝を枕にして眠っていたことに気がついた。
(…ロー?)
視線を上に向けると、膝の主と目が合う。
「お、起きたか。」
そばかすが目立つ、黒髪の男。
「--!」
だ、誰!?
ガバリと起き上がって、慌てて飛び退いた。
「お、おい、危ね…--」
「え……。」
手をついた先に、あると思っていた地面がなかった。
グラリと大きく身体が傾ぐ。
「ひ…ゃ…ッ」
お、落ちる--!
「きゅい!」
その瞬間、シュルリと伸ばされたヒスイのツルがモモの身体を支えた。
ほぼ落ち掛けた逆さまの体制のまま、モモは周囲の光景を眺めることとなる。
(た、高…ッ)
強い風がモモの頬を撫でた。
どうやらここは大きな樹の上だったようだ。