第15章 オバケの森
ハートの海賊団にヒスイという小さな仲間が増えてから、数日が経った。
一見すると愛玩生物にしか見えないヒスイだが、一緒に過ごすうちに、その能力が明らかになっていく。
まずは、案外力持ち。
初日にモモを支えてみせたように、その小さな体に似つかわしくないパワーを秘めている。
そして、ヒスイの触角は自在に伸縮できるようで、ときにはそれを鞭のように、ときにはロープのようにと利便性に富んでいた。
また、触角の先端に付いた赤い葉は、いろんな形状に変えられることができる。
サーベルのような鋭い刃や、尖った針。
食事の際には、葉をパックン草のように変形させて補食する。
最後に、ヒスイは満月の夜にだけ、葉を花に変える。
その花からは黄金の蜜が採れる。この蜜には高い薬効があるようだ。
なので、最近のモモはというと、この蜜がどのように薬として活用できるか研究することに没頭していた。
「ううーん。塗り薬はダメか…。やっぱり服用しないと効果がでないのね。」
研究結果をガリガリとノートに書き込む。
そんな彼女に、ローは何度目かの注意をする。
「オイ、モモ。いい加減にしねェか。もう寝ろって…。それから、新薬の開発に自分の身体を使うのは止めろ。」
「だって、こうでもしないとわからないのよ。」
腕にできたすり傷には、蜜を配合した塗り薬がつけられている。
「変に悪化したらどうする。」
「そうしたら、ローが治してくれるでしょう?」
にっこりと笑って、モモは再びノートとにらめっこし始めた。
(この、仕事バカが…。)
人のことを言えたものではないが、最近のモモの研究ぶりは目に余る。
食事どきを除いては常に没頭しており、まともな会話もままならない。
正直、それがローにとって、おもしろくなかった。
バサッ。
「…あッ。」
上から伸びてきた手が、ノートを取り上げてしまう。
「ロー、返して。」
すぐに手を伸ばすが、届かない。
「もう、邪魔しちゃヤダ。」
意地悪をする彼を非難すれば、これ以上ないってくらい不機嫌な顔をされた。
「…俺と研究と、どっちが大事だ。」