第14章 食虫植物
あれから、海に出て数日が経過した。
航海はいたって順調。
その日もモモは歌を唄いながら、薬草たちに水をあげていた。
左手の薬指には太陽の光を浴びて、キラリと輝くスター・エメラルド。
モモの歌を聞いて、薬草たちは急成長を遂げ、青々とした葉を多い茂られている。
通常の薬草よりも、より高い薬効が見込めそうだ。
けれど、その中で未だ芽も出さない鉢植えがひとつ。
「うーん、どうしてだろう…。」
菜園の主から貰った、食虫植物の種。
それが植えられた鉢の前で、ため息を吐いた。
モモには植物を育てる才能がある。
だから、今まで天候や害虫などの自然界の災害が原因となったことを除いて、モモが育てられなかった植物はない。
それを密かに誇りに思っていたモモは、芽を出さぬ鉢に出鼻をくじかれた気分になった。
食虫植物を育てるのは初めてだけど、貰ったときに育て方を尋ねたら、菜園の主は、「たっぷり愛情を注げば大丈夫!」と曖昧すぎる助言しかくれなかったため、もっと簡単に育つものと勘違いしていた。
「愛情が足りないのかな? ゆっくりでいいから、ちゃんと芽を出してね。」
恥ずかしがり屋の種に、そっと語りかけてみた。
「愛情が、なんだって?」
「あ、ロー。」
もう昼過ぎだというのに、ようやく船長室から出てきたローに笑顔を向ける。
それを眩しそうに見やりながら、モモの下へと近づいてきた。
「へえ、この数日間でずいぶん育ったじゃねェか。お前の歌はすごいな。」
「ありがとう。」
率直に褒められて、思わず照れる。
「でも、この子がなかなか芽を出さなくて…。」
「あ? なんの種だ。」
「ほら、あの食虫植物。真っ赤な種があったの、覚えてる?」
ああ、と以前モモが種の仕分けをしている際に見かけた食虫植物のことを思い出した。
「そんなもんもあったな。」
「わたし、食虫植物を育てるのは初めてだから。どこがいけないのか、わからないの。」
「もともとオマケで貰ったもんだし、別に育たなきゃ、それはそれでいいんじゃねェのか?」
無理やり押しつけられたようなもの。
育てようとしただけ、いいじゃないか。