第52章 ハート
額から吹き出た玉の汗がモモの肩に飛び散った。
上背があり、身長差がある二人でも、こうして背面位で抱きすくめると、ちょうど同じくらいの視点になる。
普段は見下ろすばかりのうなじが目前に迫り、その白さに誘われてべろりと舐めた。
「は、あぁ…ん……ッ」
渦巻く快感に耐えるモモの喘ぎ声がいっそう高く、甘く震えた。
モモの声には苦悶の色が窺えるけれど、それはローも同じ。
大海で鉢合わせた敵船と斬り合っても、一晩全速力で駆け抜けても流れない多量の汗が滴った。
興奮とは、欲情とは、これほどまでにエネルギーを必要とするものなのか。
だからこそ、真実の愛は全身全霊を尽くすものなのだろう。
いくら貪っても到底足りそうもない身体を揺さぶりながら、むっちりと腕に当たる胸を揉みしだく。
触り心地の良い感触を愉しみ、先端の尖りを摘まんで捏ねると腕の中でモモがびくびく跳ねた。
「んぁ……ッ、いや、も……そこッ」
嫌だと緩く首を振るくせに、男根を受け入れた蜜壁がぎゅうぎゅう締まって“気持ちいい”と如実に伝えてくる。
彼女の身体は正直だけど、ベッドの上では素直じゃない。
そういう可愛く小憎たらしいモモを翻弄させるのが、ローにとってなによりも愉しい行為。
激しい抜き差しによって泡立った結合部をぐるりと押し回し、口づけたうなじに吸いついて、紅色の所有痕を残す。
「く…ん……ッ、ロー……、あ…ゆっくり……ッ」
息も絶え絶えといった様子の彼女を愛撫しながら、キャラメル色の髪に鼻先をうずめる。
「髪、伸ばせよ。」
「ん、え……?」
「また、伸ばせ。今度は、誰にも奪われないようにするから。」
風にたなびく、長い髪が好きだった。
風下で香る、カモミールの匂いが好きだった。
ひっそりと掬ったひと筋に、唇を寄せるのが好きだった。
どんな姿でも、どんなモモでも、愛していることには変わらない。
でも、長い髪を揺らし、太陽の下で笑うモモの姿が今でも鮮明に頭の中に焼きついているのだ。
あれは、初めて会った時の姿だろうか。
それとも、もっと別な、彼方に消えた追憶か。