第51章 選んだ果てに
サカズキという男は、正義のためなら手段も犠牲も厭わない人間である。
前元帥であるセンゴクを知っているが、彼は正義という名の信念の他に、慈悲の心を持ち合わせていた。
「……元帥ッ!」
そう叫んだのは、ローに敗れた副官であった。
なぜ彼が焦っているのか。
その理由は一目瞭然。
ここは、海軍基地である。
侵入者はローであり、建物の中には同志である海兵ばかり。
それなのに、サカズキは躊躇いなく拳をマグマと化して攻撃したのだ。
“シャンブルズ”
かつてエースの胸をも貫いた、深紅の拳。
同じ拳が今、ローの心臓を目掛けて飛んできたが、そう簡単に食らったりはしない。
能力のひとつである瞬間移動で難なく切り抜ける。
自分の身体と入れ替えたのは瓦礫の破片だが、どうせだったら副官と入れ替わってもよかった。
しかし、それをしなかったのは、そんな状況になったとしても、サカズキが拳を止めることがないと知っていたから。
この男は、例え己の副官が危機に陥っても、迷わず踏みつけていくだろう。
少し前のローだったら、戦力は減らすに越したことはないと考え、副官をサカズキの手で始末させたかもしれない。
けれど、モモの傍にいるせいか、非情になりきれなくなっている。
そんなローの甘さから命が救われたと知らない副官は、負傷した身体を庇いながらも、懸命にサカズキを止める。
「元帥ッ、基地には他の者が多くいます。どうか、能力をお控えください!」
副官の言い分はもっともだが、ローという獲物を前にしたサカズキには通じない。
「黙らんかい! おどれはローを消さにゃァ、セイレーンも手に入らんとわからんのか! 不測の事態に対処できん部下なぞ、必要ありゃァせん!」
そう言いながら、再び拳をマグマに変えて、ローへと飛ばす。
避けるたびに建物が燃え、がらがらと崩れていく。
奇しくも、ローが計画した陽動作戦が、結果的に多くの海兵の命を救うこととなった。