第49章 休息
モモの抵抗虚しく、思う存分吸われた喉から、ちゅっと音を立ててローの唇が離れた。
鏡で確かめなくとも、そこに真っ赤な花びらが鮮やかに色づいていることは明白だ。
「もう…、なにするの…ッ」
これ以上 痕を増やしてなるものかと、すかさず顎の下に手を入れた。
「お前が…、煽るのがいけねェんだろうが。」
「煽る? わたしがいつ、そんなことをしたの。」
モモはただ、ローの質問に答えていただけだ。
「お前の怖ェところは、無自覚なところだ。…ああ、別にわからなくていい。」
勝手に話を終わらせると、ローは首もとを隠したモモの指にカリッと歯を立てる。
「や…ッ、もう……!」
戯れのようなそれに、モモが文句を言おうとした時、視界がくるりと反転する。
ドサッ。
いつの間にか、背中にはしっとりとした皮の感触。
ぱちぱちと瞬くと、視界いっぱいに映るローの背後に、天井が見えた。
ローの片手が、囲うようにモモの顔の横に置かれた。
ギシリとソファーが音を立て、モモはようやく自分が押し倒されたことを知る。
ハッとした時には すでに遅く、ローの空いた片手が器用にモモのブラウスのボタンを外していた。
「ちょ、ちょっと待って……!」
慌ててボタンを外す手を止めたが、なんという早業か、胸もとは大きくはだけてしまっている。
「あの、ロー…。」
覚悟がない、というわけではない。
ローと関係を持つのは初めてのことではないし、自分は少女と呼べる年齢でもない。
だけどその…、なんというか、心の準備をさせてほしい。
だって、互いに想いを通じ合ってから、初めてのことだ。
なんだか緊張する。
待ってくれないかなぁ…と上目遣いに見つめれば、途端に眉を寄せられた。
「俺は十分に待ったはずだ。お前、まさか島での約束を忘れたわけじゃねェだろうな?」
「そ、それは……。」
ちょっとばかり、忘れていた。
モモは前回の島で言ったのだ。
“続きは海へ出てから”と。
出航してから、1日以上経つ。
ローとしては、十分すぎるほど待ったのだろう。
「文句はねェな?」
念押しされるように問われれば、もはや「待ってくれ」などとは言えなくなってしまった。