第49章 休息
モモを好きになったのは、いったいいつからだったのだろう。
初めて会った瞬間かもしれないし、息と息が触れ合いそうなくらい近づいた瞬間だったかもしれない。
キッカケなど思い出せないくらい、いつの間にか好きだった。
それまで、愛だ恋だなんてものは、一切自分に関係ないと思っていた。
数年前から女に欲情しなくなったことも、気にならないくらいに。
それがなぜだか、モモだけは違う。
欲しくて欲しくて堪らない。
こうして手に入れた今でも、なにかが足りない気持ちになるのは、どうしてなのだろう。
そして気づいた。
自分とモモは、出会ってたった数ヶ月。
モモと過ごした時間は、いつでも密度濃いものだったから忘れていた。
彼女は23年間生きていて、おそらくコハクの父親は、ローの何倍も長い時を共に過ごしたであろうことを。
ローは知らない。
なぜモモは海に出て、どうして海賊になったのか。
どんなふうに恋をして、どんなふうに抱かれたのか。
そんな話を聞いたって、胸が焦げる想いをすることはわかっている。
知りたくない、だけど知りたい。
聞けば苦しくなるだけだとわかっているのに、やめられない。
モモの存在は、まるで危険薬物のようだ。
そんなふうに例えたら、モモは怒るだろうけど。
「ほら、話せよ。約束だろ?」
そう急かしながらも、なぜこんな質問をしてしまったのかと己を呪いたくなる。
今から話させるのは、ローではなく、他の男に抱かれた話だ。
モモが口を開く前から、どす黒い感情が腹の中で暴れている。
それを隠すために笑みを浮かべているが、いざ聞いてしまったら、それを保っていられる自信がない。
今まで女の過去になど、興味を持ったことは一度もなかったのに。
(くそ……。)
しかし、知りたいのも事実。
この身持ちの固いモモが、自分ですら押して押して…ようやく落としたモモが、どんなふうに誰かを好きになったのか。
「えーと……」
ついに口を開いてしまったモモに、ローは気づかれないように覚悟を決める。