第48章 欠けた力
「エキノ…コックス症…?」
聞き慣れぬ病名に、少女は首を傾げた。
この奇病がエキノコックス症だということを、彼女は知らないようだった。
それならば、誰かが知っているのだ。
病を知らなくして、指示ができるはずもない。
「水の処理法を、誰から聞いた。」
自然と胸が高鳴る。
「おねえちゃん…、モモおねえちゃんから。」
「「──!!」」
その場にいる全員が、歓喜の表情を見せる。
モモの状況は。
海軍の所在は。
気にするべきことはたくさんあるのに、ただただ喜びだけが溢れた。
「よかったァ、ほんとうに…いたんだ!」
「バカ、ベポ 泣くなよ。まだ早いだろ…、ぐす…。」
突然 目の前の男たちが、喜ぶわ泣くわで困惑したのは、途方に暮れた少女だった。
それもそのはず。
少女にとっては、身近な知り合いが倒れた緊急事態。
こちらの事情を尋ねる余裕すらなかった。
「おい、みんな。まずはこの人を運ぶのが先だろ?」
真っ先に正論を述べたのは、本当は1番喜びたいはずのコハクだった。
「…役立たずのクマでスミマセン。」
「そのネタはいいから。…ロー、動かしても平気だよな?」
脳部に異常があるなら些細な振動も危険だが、この人は腹が痛いと言っていたし。
「ああ、問題ない。」
的確な判断に頷くと、少女が不安げに瞳を揺らした。
「…おばさん、助かるの?」
少女の様子からして、この村ではもう何人も死者が出ているのだろう。
エキノコックス症の治療法は、外科手術。
それも、ユキギツネから発症した場合、そのオペは極めて難しい。
けれど…。
「……ああ。」
外科手術において、ローの右に出る者はこの世界にいない。
どんな危険なオペでも、オペオペの能力を宿した“死の外科医”は、絶対に失敗などしない。
初めて「助かる」と明言された少女は、緊張の糸が切れたかのように、その瞳から涙を溢れさせた。