第48章 欠けた力
村に入ってみると、メルディアの言うとおり、異様な雰囲気が漂っていた。
「誰も…いないねぇ…。」
まだどこか怯えた様子のベポが、辺りをきょろきょろと見回す。
「だが、確かに家の中にはいるようだな。」
気配もするし、僅かだけど生活感もある。
「どうします? 無理やり入ってみますか?」
乱暴な提案に、コハクは眉をひそめた。
村人は一般人だ。
モモの行方を知るためとはいえ、家に押し入るような方法には賛成できない。
「いや、先に村を回ってみたい。」
ローが許可をしなくて安心した。
海賊である限り、時には非情にならねばいけないのだろうが、コハクは自分が甘いことを自覚している。
けれどその非情さは、おそらく医者にとっても必要なことだ。
自分もいつか、学ばなければならない。
島の大きさからして、村の規模も広くはない。
散策することに、さほど時間を必要としなかった。
「ああ、川があるッスね。」
村の中心には、森から続く川が流れていた。
豊かな自然は、村に恵みをもたらす。
けれど、ローは先ほど見たキツネを思い出し、嫌な予感がした。
「あ、キャプテン! 人がいるよ!」
ベポが指差す方向に、中年の女がひとり歩いていた。
初めて会う、村人。
「……オイ。」
どこか緩慢な様子で歩く女に、声を掛けた。
くるりと振り向いた女の顔色は、ひどく悪い。
「…聞きたいことがある。この村に金緑色の瞳をした女が──」
ドサリ。
質問をしている途中で、女が倒れた。
「…オイ、どうした。」
放っておくわけにもいかず、ローも地面に膝をつく。
「……。」
肌が黄ばんでいる。
それと、眼球も。
「…どこか、痛むか。」
女は荒い息を吐きながら、「…腹が」と答えた。
悪い予感が当たる。
詳しく診てもいないが、こういう時、自分の医者としての勘は外れない。
この村からは、死の臭いがする。