第48章 欠けた力
待って、わたしはまだ……。
キッドの袖を掴んでいた手が、振り解かれた。
それと同時に、彼は懐から短剣を取り出し、するりと鞘から抜く。
鈍い光を放つ刀身を目にして、モモは弾かれたように動いた。
「キッド…ッ! お願…、もう一度だけ……!」
再び縋りつこうとするモモの肩を、キッドはドンと押した。
「邪魔だ、外へ出ろ。」
先ほど、モモが指示した言葉を口にする。
「いや!!」
だからモモも、キッドと同じように拒絶した。
しかし、彼はモモのように折れてはくれない。
「ホーキンス、連れ出せ。」
「……。」
成り行きを黙って見ていたホーキンスが、そっとモモの肩に手を置く。
「嫌です、ホーキンスさん…!」
ふるふると頭を振るけど、彼は無表情を崩さぬまま、モモを立たせた。
どうやら、キッドと同じ考えらしい。
「キッド! キラーが死んでしまうわ! お願い、もう一度だけ唄わせて…ッ」
今度はもっと、想いを込めるから…!
「…うるせぇな。ホーキンス、早く追い出せ。」
そう言って、キッドはキラーの傍に寄り、彼の服を捲り上げる。
「ダメ…ッ!」
張り裂けそうに叫べば、痛んだ喉から咳が溢れた。
その隙をついて、ホーキンスがモモの身体を抱え上げる。
「……ッ!」
強制的に連れ出す気だ。
連れ出されてはおしまい。
ホーキンスには悪いが、力いっぱい暴れる。
けれどそんな抵抗など、彼にとっては些細なものに等しく、いとも簡単に封じられてしまう。
「モモ、お前はよくやった。もう、諦めろ…。」
いつも味方でいてくれたホーキンス。
その彼の口から、1番聞きたくない言葉を告げられた。
涙で歪む視界に、玄関のドアが映る。
このドアをくぐれば、本当に終わり。
なにも、できない。
薬剤師なのに、セイレーンなのに。
わたしは、わたしは……!
お願い、誰か。
誰か、たすけて。
──ガチャリ。
ドアが、開いた。
瞬きと共に、涙がはらりと落ちる。
……神様。