第48章 欠けた力
墓地から村に戻る頃には、正午をとっくに過ぎていた。
身も心も疲弊していたけど、そんなの村の人たちに比べたら微々たるもの。
コンコンとベンの家の戸をノックすると、勢いよくドアが開いてカトレアが飛び出してくる。
「…おねえちゃん!」
縋るような眼差しが痛い。
「ごめんね、急にいなくなって。」
ふるふると首を横に振るカトレアは、少し涙目だ。
不安だったに違いない。
それなのに、モモは聞けない。
「ベンおじさんの様子はどう?」って。
聞けるはずかなかった。
それを聞いたところで、どうにもできないのだから。
「…カトレア、病気を防ぐ方法がわかったわ。」
なるべく明るい声を出した。
少しでも前向きになれるように。
「ほんと!? どうしたらいいの?」
「水を使う時は、一度沸騰させて。水から移る病気だったの。だから、飲み水じゃなくても、口に入る可能性がある水は全部沸かしてから使うのよ。」
風呂の水も、皿洗いの水もすべて。
そうすることで、これ以上被害が拡大することはない。
ユキキツネの捕獲とか、やることはたくさんあるけれど。
「良かったぁ…!」
ずっと緊張していたカトレアが、綻ぶような笑顔を見せた。
その笑顔に、モモの心も少しだけ軽くなる。
けれど、それも一瞬のこと。
「じゃあ、ベンおじさんも助かるんだね!」
「──ッ!」
途端に、鉛を飲み込んだような気持ちになる。
病気の原因がわかった。
だから、みんな治る。
カトレアがそう思うのは、自然なことだ。
だって、原因がわかれば薬を作れると言ってきたのは、モモ自身なのだから。
(言わなくちゃ、薬は作れないって。)
唯一の治療法は外科手術。
だからモモには、治せない。
その上、ユキキツネから移るエキノコックス症は、手術がとても難しい。
寄生虫が絡みついて、除去する際に臓器に大きな傷をつけてしまうのだ。
もしここに医者がいたとしても、生存率はとても低い。
だから、みんなはもう…。
言わなくちゃ、言わなくちゃ。
カトレアに、真実を。
「おねえちゃん…?」