第43章 覚悟
身体を重ねた時、こうして距離が0になる瞬間がモモは好きだ。
かつては、いつでもこの距離にいたことを思い出し、知らずと瞳を閉じる。
夢か現実かもわからないこの幸福に浸っていたいのに、ローはそれを許してはくれない。
カリッと耳を食まれ、軽い痛みに目を開けると、熱く燃えた瞳のローがいた。
久しぶりの行為に神経を使ったのか、形の良い額には汗が滲み、癖のある黒髪が張り付いている。
素敵な人は、どんな表情をしても素敵だ…なんて考えていたら、彼は不機嫌そうに眉を寄せる。
「…俺を見ろ。」
どうやら、モモが瞳を閉じたことが不満だったらしい。
バカな人。
目を瞑ろうが開こうが、いつだってあなたしか見ていないのに。
「見てるわ…。」
そう言って汗で張り付いた前髪を掻き上げてやると、ローは満足したのか心地よさそうにその手に擦り寄る。
まるで大きな猫のようだ…なんて考えていると、急に愛しさが胸に溢れた。
猫は猫でも、相手は獰猛な虎。
そんな彼が甘える姿は、この広い海を探し回っても、きっと自分しか見られない。
自分だけの特権に幸せを噛みしめた時、大きな肉食獣は再び牙を剥く。
「動くぞ。」
もはやローの言葉に対して躊躇いなど感じられず、モモはコクリと頷いた。
くちり と音を立て、穿たれた熱が中を突いた。
「ん…ッ」
それだけでモモの腰はぴくんと跳ね、熱い吐息が漏れる。
強張っていた蜜壺は再びとろけ始め、ぐちゅぐちゅと淫らな水音が響く。
快感を堪えるように首を振れば、キャラメル色の髪が乱れて、髪に染み付いたカモミールの香りが舞う。
その香りをたっぷりと吸い込んだローは、熱く息を吐いた。
「どうして…、お前は…。」
こんなにも俺を掻き乱すのか。
どうして俺は、こんなにもお前を欲するのか。
その問いは声にはならず、ただの欲求としてモモへとぶつかる。
緩やかな動きに限界を感じ、ぐっと腰を動かすと、頬を上気させたモモが甘く鳴いた。
わかるか。
今お前の中にいる男は、他の誰でもなく、この俺だ。
そして、これからも…。
ローの中で、ひとつの決意が固まる。