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ハコの中の猫 【黒執事R18】

第3章 第3話


「え、えぇ、と、佐藤です。その、こんばんは。」
『ええ、こんばんは。夜分遅くにすみません。今、大丈夫ですか?』
 久しぶりに聞いたセバスチャンさんの声は、二週間前と何も変わらない、直接脳内に響いてくるような、甘く蕩けるようなテノールだった。
「大丈夫です。あの、えっと、その、この間はありがとうございました。結局、セバスチャンさんのご厚意に甘えてしまって、喫茶店で高いお茶をご馳走になって、それに遅くまで話を引き延ばしてしまって、その上家の前まで送ってもらって……!あ、でも、古代エジプト文明が栄えた頃のファラオの人となりについての話とか、産業革命前後のイギリスの話なんかはもうすごく楽しくて、本当にセバスチャンさんが体験してきたみたいなリアリティがあって……ってあれ、私何言ってんですか。」
『……。』
 私は何か、勢い余って突っ走ってしまった気がする。いや、突っ走ってしまった。二秒ほどの短い沈黙が、異様に長く感じる。私がひたすら喋った後だから、余計に沈黙が重たい。
「すみません。私ばっかり喋っちゃって。」
『いいえ。少し驚いただけですよ。』
「ごめんなさい。そりゃ、こんなに一方的に喋られたら、驚きますよね。何かすみません。」
『いえ、結衣さんは鋭いですね。さて、日曜の話ですが、私が誘ったわけですし、結衣さんさえ宜しければ、お迎えに上がります。』
「いえいえ、だって……」
 やっぱり申し訳ない、と言おうとしたところで、先にセバスチャンさんが口を開いた。
『ああ、もしかして、私といるところを見られたら困る人でもいるのでしょうか?』
 ……!受話器の向こうで、ほんの少し意地悪く笑ってるセバスチャンさんの顔が目に浮かんだ。一瞬、ビクッとした自分がいるが、そんな思い上がった自分を軽く無視して、次の言葉を紡ごうとするが、私はどう返して良いものか全く分からないので、無理矢理会話を繋げる。
「なっ、何、何を言っているのですか……!それを言うなら、セバスチャンさんの方が、私なんかといると、その、誤解されますって。」
 ……しまった。口にしてから気付いた。こんな容姿端麗な人が私のような人間を連れていたとしても、何をどう誤解すると言うのか。もう、正直言って電話を切りたい。
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