• テキストサイズ

あなたの好きをまだ知らない。

第5章 夏草


「見たのか、冴杜。」

「父さん…」

いつの間にか後ろに父さんがいた。

「これを撮ったのは私だ。
撮りたいと言ったのは早恵だが、結果的に、見せるのは高校を卒業したときと決めていたが、今見せた方が良いと思ってな。」

「母さんは…何で死んだんだ。」

「癌だった。
末期の肺癌だ。」

「…もう一つ聞きたい。」

「何だって聞け。
今ならすべて答える。」

「何で再婚したんだ。」

「…」

答えないという態度ではないが、父さんは黙り込んだ。

「そうだな…美南に甘えてたのかもしれない。だからだな。」
父さんはあの日、家から消えた理由を話してくれた。
母さんの遺言に従い、一人にしたらしい。

「まぁお前からしてみれば、分からないよな。
突然誰もいなくなるんだ、仕方の無いことだ。」

「…もういいよ…みな…母さんも…来てるんだろ?」

「…あぁ、」

「この世界、辛いことは沢山ある。けど、それに一人で立ち向かわなくちゃいけないんだって、知り合いから聞いたんだ。
だから、精一杯俺も美南母さんと向き合いたい。」

「そうか。美南、出ておいで。」

階段の影に母さんがいた。
ボロボロ泣きながら。

「全く、お母さんでしょうが。美南は…」

「ごめんなさい…私…」

「母さんは悪くないさ、悪いのはどっちかって言えば父さんだし。」

「確かに、俺だな…美南、すまない…」

相変わらず人は理解者を求めているんだと思っていると、ふと時計が目に入った。

「…9時…あっ。」

丸山に連絡をしていなかった。俺は急いで丸山に電話をかけた。

「冴杜、父さん達、帰るからな。」

「あぁ、今それどころじゃないから、また。」

丸山を誘えなければ、指塚が悲しむだろう。

『もしもし、冴杜?』

「一弥!!急で悪いけど、明日暇か!?」

『え?…まぁ部活も丁度休みだし、どっかいくの?』

「良かった…聞いて驚くなよ…」

と、概要を伝えると、丸山は嬉しそうな声色で喋っていた。

明日は夏休み最終週だった。
/ 33ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp