第5章 麦わら帽子とヒマワリとカメラ
三分の一ほどを耕し終えたところで、本丸が活気づいてきたことに気づく。
もうそろそろ殆どの刀が起き始める頃だろう。
男は地面に腰を下ろして一休みする。
審神者になってから力仕事は殆どなかったため、久しぶりの力仕事に早くも筋肉痛がやってきた。
自分の両手を眺め、これはマメになりそうだなんて思う。
マメができるのなんて何年ぶりだろうか。
「あつ…」
風が吹きまだ涼しかった早朝に比べ、まだそれほど陽が高いわけでもないのに日差しはかなり強い。
男は滴る汗を手ぬぐいでぐいと拭う。
じーじーと鳴く蝉をBGMに、夏だなあとしみじみ思った。
今日の近侍は確か燭台切光忠だった筈だ。
まだ男は寝ていると思って、起こしに行くに違いない。
その前に顔を見せてやらなければ、騒ぎになるだろう。
男は立ち上がり、農具を馬小屋の近くに立てておく。
それから井戸まで向かうと、水を汲み頭から被る。
洗面所でもいいのだが、畑からだと洗面所は遠いのだ。
それに夏になると、井戸水のほうが冷たくて気持ちいい。
汗がちょうど流れさっぱりしたところで、男は水を払う犬のように首を振って濡れた髪を乾かす。
それほど髪が長くない男は、これをするだけで雫が垂れない程度には乾く。
手ぬぐいの汚れていない部分で顔を拭き大広間に向かおうとしたところで、顔を洗いに来たらしい骨喰藤四郎とばったり遭遇した。
「おはよう、骨喰」
男が挨拶をすると、骨喰藤四郎はこくりと頷いて返事をする。
彼は低血圧であるから、朝はいつもこんな感じだ。
朝起きるのがつらいのは、男にもよくわかる。
男は骨喰藤四郎が顔を洗い終えるのを待って、一緒に大広間まで行くことにした。