第2章 演練
しばらしくして足音が聞こえてき、男は再び上体を起こした。
姿を見せたのは、やはり薬研藤四郎だ。
手に持っているお盆には、薬以外に白湯と卵粥が乗っている。
荒れた胃にはありがたい。
鼻腔をくすぐる柔らかい匂いに、男の腹がなる。
それを聞いて、薬研藤四郎はくすくすと笑った。
「薬は飯くってからな」
「うん。卵粥は薬研が?」
「残念だが俺っちじゃねぇな。光忠だ。和泉守のも二日酔いらしい。一緒に飲んでたのか?」
「いや、俺は鶴と飲んでた」
「鶴の旦那か。あの人本当酒強いな。」
男はあっと言う間に卵粥を完食すると、薬研藤四郎が煎じた薬を白湯とともに流し込む。
口に広がる苦味はえげつないが、これがまたよく効くのだ。
二日酔いになるたびに、男はこの薬に世話になっている。
「今日の近侍は薬研だったか?」
「いんや、違うぜ。山姥切のだ。後でこってり絞られるかもしれんが、自業自得ってやつだ。」
「げっ。いや、昨日は月がきれいだったろ?それでだな…」
「大将もこりないお方だ。何も山姥切のだって毎回怒るわけじゃないだろ。」
「それは…」
ぐうの音も出ないとは当にこのこと。
男は降参と言うように肩を竦めてみせた。