第4章 夏の風景
とほほと心の内で涙を流しながら、男は未だ鶴丸国永の僅かな違和感に気づけずにいる。
いつまでもそこに立っているだけにもいかず、男は緊張で上擦る声で聞いた。
「あのさ、俺昨日の夜のこと何も覚えてねぇんだけど…」
そこで男は言葉に詰まる。
なんと言えばいいのか分からなくなったのだ。
どう続けようか悩んでいると、唖然という言葉がしっくりくるような声音で言葉が降ってくる。
「おぼえてないのか…?」
男は下を向いていた顔を上げた。
目に映ったのは、驚きを含んだ鶴丸国永の顔だ。
その物言いに、男は何かあったのだと確信する。
「ごめん…、覚えてない」
男がそう言い放てば、鶴丸国永は苦虫を噛み潰したような顔をした。
そんな鶴丸国永の顔を初めて見た男は、ひどく焦燥に駆られる。
何を言ったのだろうか。何をしたのだろうか。
俺は彼に嫌われるようことを、もしかしたらしてしまったのだろうか。