第4章 夏の風景
「おれ、何かしたのか…?」
出した声は、思っているより揺らいでいた。
不安を多分に含んだ声音に、鶴丸国永の眉が下がる。
安心したような、困ったような、そんな風な笑みを浮かべた鶴丸国永に、男はどうしていいか分からなくなる。
「…いや、何もなかったさ」
置かれた言葉は、確かに男を安堵させるものであった。
安堵させるものであったはずなのに、それでも胸の内は晴れない。
鶴丸国永の言い分からして、何もなかったことが嘘であることなど分かってしまう。
それでもそう言われてしまえば、男に成せる術はなくなってしまうのだ。
男は諦めて笑みを浮かべ、それから礼を言う。
「そうか。…昨日、かき氷食べて寝たときも、酔って寝たときも、鶴が運んでくれたんだろ?ありがとうな。」
「たやすい御用だ。主は軽いからなあ。もう少し筋肉をつけるべきだぜ。」
やっと戻ったいつもの言葉の応酬に、男は安堵する。
「お前はいつも一言余計だ。」
鶴丸国永を小突いてそう言えば、離れたところから男を呼ぶ薬研藤四郎の声が聞こえた。
「たいしょー、第三部隊帰ったぞー」
その言葉を聞いて、男は慌てて時空移転装置の元へ向かう。
結局、男はキスしたことも告白したことも知ることはなかった。