第4章 夏の風景
男が時空移転装置へ向かう道中、向かい側から鶴丸国永がやってくるのを見つけて男は足を止めた。
昨晩の記憶がない部分のことを聞きたいが、もし危惧していたようなことを答えられればと思うと躊躇してしまう。
起こったことは変えられないし、事実として確かに存在している限りなくなることもない。
そんなことは分かっているが、仮に想いを告げていたとしてまた振られたら、と思うと聞き出す勇気はたちまち萎んでしまう。
自分がこんなに臆病だなんて、男は鶴丸国永に恋をするまで知らなかった。
男は近づいてくる鶴丸国永に、それでもと声をかけた。
「鶴」
男に気づいていたであろう鶴丸国永は、その呼び声にぴくりと眉を動かす。
そんなことに気がつかずに、男はなんと言っていいか迷ってから挨拶を口にした。
「お、おはよう…」
しかしそれを口にした途端、男は後悔する。
いや、おはようってなんだよ。昼もとうに過ぎてもう夕方だって。おはようとかねーよ。せめておそようだろ。だめだ。しょーもなさすぎる。
内心で突っ込みながら、男は鶴丸国永の返事を聞く。
あきらかに合っていない挨拶にも普通に返してくれることが有難いのか虚しいのかすら分からない。