第4章 夏の風景
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翌日、男が目を覚ますとお天道様はすでに天辺におわせられた。
中庭から聞こえる短刀たちの笑い声と太陽の光の破壊力たるやなんたることか。
がんがんと頭は頭痛を訴え、話すことすら辛いほどの吐き気に、男は起き上がることを断念した。
これなんてデジャヴ。
しかし以前とは決定的に違うところがある。
まったく、なにひとつ、覚えていないのだ。
確かサツマイモの甘露煮を食べたところまでは覚えている。
そこまでは覚えているのだが、何せその後の記憶がまったくない。
男は顔を青くさせ、プルプルと震える手で机に置かれてあるペットボトルと薬をとる。
おそらく薬研藤四郎が置いていってくれたのだろう。
二徹からの二日酔いはなかなかくるものがあった。
今日一日は布団にお世話になること決定だ。
男は何とか起き上がって薬を水で流し込む。
蓋を閉め枕元に置いて、再び横になった。
もちろん、山姥切国広のお説教だって恐ろしいのだが、今はそれを優に超える恐ろしいことがあった。
言わずもがな、鶴丸国永のことである。
好きな人と夜に二人きり、しかもアルコールは記憶が飛ぶほど回っていた。
もし酔って直ぐに寝ただけならいいのだが、何となくそうではない気がする。
いや、いやいやいやいや、うん、ないって。きっとすぐ寝たんだって。そうだよ、そうに決まってる。だっていくら睡眠挟んだとはいえ、二徹明けだぜ?そんな起きてられる元気ねぇよ。…ねぇよ、な……?
男はサーッと血の気が引くのを感じた。
仮に寝てなかったとして、自分は変なことを口走りはしなかっただろうか。
また以前のように、想いを打ち明けてはいないだろうか。
男にとって、それはひどく恐ろしいことだった。