第4章 夏の風景
何も反応を示さない鶴丸国永に、男は痺れを切らしたらしい。
或いは、好きにしてといいと思ったのか。
男は、押し倒した鶴丸国永に口吸いをした。
唇と唇をくっつける行為。
少しカサついた男の唇が、柔い鶴丸国永の唇に触れる。
舌を入れることもなければ、何度も喰むわけでもない。
まるで子供のようなキスだった。
これには流石に鶴丸国永も驚いたようで、暫く呆気にとられた後、ぐいと顔を背けて腕を突っぱねた。
「きみなぁ…!」
声には苛立ちや焦燥が含まれていた。
しかし男はそれに気づくこともなく、鶴丸国永の上から退こうとしない。
無理矢理引っぺがしてやろうか。
鶴丸国永は加減をしているだけであって、少し力を加えれば男を退かせることなど容易い。
毎日刀を振るい戦場を駆けているのだ。
そもそも身体の作りが違う。
本気で退かそうと、鶴丸国永が力を加えようとしたとき。
「…………れ」
ぼそりと男が呟いた。
鶴丸国永は突っ張ねた腕を緩和させ、目を見開いた。
それに構わず、男は先ほどよりしっかりした口調でもう一度言う。
「だいてくれ」
つる、だいてくれ。
おれはつるに抱かれたいんだ。
おまえのことを考えるとな、腹のおくのほうが、きゅうきゅうと切なくなるんだ。
つるが欲しくてたまらない。
男はそう言うと、突然電池が切れたように鶴丸国永の上に倒れこんだのだった。