• テキストサイズ

とうらぶっ☆

第4章 夏の風景



「つる」

男が鶴丸国永を呼ぶ。
その声だけがやけにはっきりしていて、鶴丸国永は男の顔をじいと見つめる。
酔っているのに違いないのに、今の声はなんだと言うのだ。

「つる、つる、」

男は壊れた機械のように、鶴丸国永の名を繰り返す。

つる。
かわいいつる。
きれいなつる。
かっこいいつる。
おれのつる。

頭の中に浮かぶのは、散り散りになった単語とあの日の記憶。
焦がれてやまない、愛しい神さま。

すきだ。
すきなんだ。
つるがすき。だいすき。
いとしい。かわいい。すき。

「すき、」

ぽつり、男は虚ろな目で言葉を零す。

「すき、つる、すき。すき。なあ、すき。」

つる、すき、その二つの単語を、ばかみたいに何度も何度も繰り返す。
鶴丸国永は何も答えない。
驚いた様子もなく、ただ傍観に徹していた。
そしてその想いびとの態度に、男は傷つく。
なんで、どうして、と、幼子のように愚図る。

こんなにすきなのに、お前はおれになにもくれないの。

言葉にはしなかった。ならなかった。
今口を開けば、涙が溢れそうだった。
男は酒に溺れ、理性を手放してなお、刀の前で泣くことだけはしなかった。

/ 286ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp