第4章 夏の風景
不意に鶴丸国永がこちらを向いた。
彼を見つめる男に気がついて、声をかける。
「あるじ」
男は返事すらできなかった。
鶴丸国永の声は、どうしてこんなにも甘いのだろう。
まるで毒だ。
鶴丸国永は、返事のない男を見つめる。
そこに訝しむ色などなく、慈愛ばかりが浮かんでいた。
男はやっとのことで口を開く。
「おおくりからが…」
口の中がひどく渇いていた。
音になった声は掠れていて、聞き取りづらい。
それでも鶴丸国永は待ってくれる。
男の言うことを聞こうと耳を傾けてくれる。
「大倶利伽羅が、サツマイモの甘露煮を作ってくれたんだ。つるに、渡すようにって。」
男はゆっくりと言葉を紡いだ。
ようやっと何時ものように喋ることができ、胸を撫で下ろす。
もしかしたら、男はこの状況に緊張しているのかもしれなかった。
まるであの時のようで、無意識に身体は固くなっていた。
「ああ、俺が頼んだんだ。くり坊の作るこれは一等うまい。」
大倶利伽羅も、そういえば鶴丸国永に作れと言われたと言っていた。
彼は今頃、もう布団の中だろうか。