第4章 夏の風景
鶴丸国永の部屋に行くと、確かにそこには寝酒を嗜む真白い彼の姿があった。
三日月が彼を照らし、そこら辺を飛ぶ蛍が淡い光を弄ぶ。
耳に響くのはりんりんころりとコオロギの音。
どこまでも幻想的な風景に、男は足を止めた。
つる、といつもの愛称で呼ぼうとして、しかしそれは喉に絡まって声にはならない。
やはり彼は美しかった。
どんな時でも違いなく美しい彼に、男は何時だって恋をし直す。
脳裏を掠めるのは、あの春の日。
桜が幻想的で、月は美しく、また目の前の彼もそれに劣ることなく美しかった。
思わず口を滑ったのは男の本音。
こころそのもの。
鶴丸国永は男を振ったが、あれからどれだけ日が経とうと男の気持ちが薄まることなぞなかった。
むしろそれは、焦がれれば焦がれる程強く確かなものになっていく。
眼の奥が焼けるように熱くなって、脳は熱に浮かされたようにふわふわと思考もままならない。
恋は人をだめにする。
偉人の言葉は、いつだって偉大だ。