第4章 夏の風景
大倶利伽羅が台所に立つことは滅多にない。
そもそも料理が出来ると知っているものすら、片手で足りるほどしかいないだろう。
特に好きというわけではなく、必要に迫られれば作るといった感じだ。
男が大倶利伽羅が料理をするということを知っているのは、たまたまその場に遭遇したからであって、本人から聞いたわけでも料理を振舞ってもらったわけでもない。
果たして今日は一体どういう経緯で作るのに至ったのか。
これが野菜炒めや残り物で作った有り合わせならお腹が空いたんだろうな、と分かるが、今日はサツマイモの甘露煮ときた。
男は不思議に思って、大倶利伽羅に尋ねる。
「それ、倶利伽羅が食べるのか?」
男が聞けば、大倶利伽羅は少し間を空けて答えた。
「国永に捕まった。あいつ人の布団に入ってきて、作らないなら出て行かない何て言う始末だ。あのじいさんどうにかならないのか。」
大倶利伽羅は酷く面倒臭そうにため息を吐いて、それから鍋にかけている火を止めた。
ただよってくる甘い匂いに、男は唾を呑む。
少しだけ貰えないだろうか、とハンバーグを口に入れた。