第4章 夏の風景
大倶利伽羅は、手際よく二つの小鉢にサツマイモの甘露煮を移していく。
眩い黄色にかかる、とろりとした蜂蜜色の甘い砂糖を煮詰めたもの。
甘い匂いに混ざって香るのは、檸檬だ。
男はハンバーグの最後の一口を咀嚼し終わると、空になったお茶碗とお皿を持って台所へ行く。
その際に覗き見れば、サツマイモの甘露煮はそれはそれは魅力的だった。
物欲しそうに見ていると、大倶利伽羅が口を開く。
「…一つはあんたのだ」
そっけなく落とされた言葉に、男はかんばせを綻ばせた。
大倶利伽羅は男と二人でいるとき、滅法やさしい。
そして意外によく喋る。
彼はこの本丸では古株の刀であった。
「そのかわり、もう一つを国永に渡しといてくれ。」
げっそりとした大倶利伽羅を見るに、相当参っているらしい。
男が書類作成に追われていた二日、鶴丸国永の驚きと称した悪戯に一番付き合わされたのは大倶利伽羅なのだろう。
男は分かったと頷き、自身の食べ終えた食器を洗おうとする。
しかしそれを大倶利伽羅に制された。
「いい、俺がやっとく。」
ありがたい申し出に、男は甘えることにした。
ありがとう、と礼を言えば、別にと返される。
もし息子が出来ればこんな感じなのだろうか、と男は想像し、自分より数センチ高い大倶利伽羅の頭をわしゃわしゃと撫ぜたのだった。