第4章 夏の風景
ずばり、と言われた言葉に、男は唇を突き出した。
男だってとうに成人済みの大人だ。
髭が似合わないとは、如何様なものかと思う。
しかし自分の童顔は理解しているので、反論の余地もない。
「…鶴も髭は似合わないだろうなぁ。想像もつかない。」
せめてもの意趣返しというように男は口にした。
髭メガネをかけて驚かしに回る鶴丸国永は見慣れているが、実際に髭が生えているのを想像すると何ともアンバランスだ。
そもそも刀剣男士は成長しないので、髭が生える心配などないのだが。
「いや、案外似合うかもしれんぞ?」
「それはねぇよ。…似合うとしたら、石切丸あたりなんかいい線いくんじゃないか。あと一期とか堀川とか清光とか。」
「……主、きみもしかしなくとも眠いな?」
「ん?」
石切丸は分かるとして、後の三人はないだろう。
鶴丸国永が呟くが、どうやら男には届いていないらしい。
こりゃもうだめだ、と鶴丸国永はため息を吐く。
男は倒れはしないと言ったが、やはり眠気はマックスつまり限界まできているようだ。
陽も傾いてき、蝉が鳴りを潜めコオロギが鳴き始める時間。
風は心地よく、眠たくなるのも無理はない。
「つる、」
男は鶴丸国永の名を呼ぶ。
もう眠たくて眠たくて瞼がくっついてしまいそうだった。
襲ってくる強烈な睡魔に、男は抗う間も無く身を委ねた。
とすん、と頭が鶴丸国永の肩に凭れかかる。
まだ僅かにある遠い意識が、鶴丸国永を好きだと叫ぶ。
好きな人の香りにつつまれて、男は手に器を持ったまま眠りについたのだった。