第4章 夏の風景
「ほう、この様になるのか。」
「ほうひひは?」
まじまじと見つめる三日月宗近に恥ずかしくなった男は舌を出したまま、もういいかと聞く。
しかし三日月宗近からの返答はない。
舌もだるくなってきたし、そろそろ頃合いだろうと思ったときだ。
何を思ったのか、三日月宗近が男の舌を舐めたのである。
「っ?!!」
ぺろり
舌をひと舐めした三日月宗近はけろりと言う。
「ふむ、味はしないのだな。」
男は驚きのあまり声も出ず、体制を崩したままものすごい勢いで後退した。
どん、と壁に背中がぶつかったがそれどころではない。
男の頭の中はパニックである。
「こ、れは…驚いた……」
あの驚き大好きな鶴丸国永とて、目を見開き唖然としている。
男は未だ訳が分からずぱくぱくと口を動かすだけだ。
当の本人、三日月宗近はこてりと可愛らしく首を傾げているが、男は三日月宗近をちっとも可愛く思えなかった。
嘘だ。ちょっとはかわいいと思った。
そりゃあこんな美人にそんな可愛らしい仕草をされて可愛いと思わない方が無理である。
男は結構ちょろかった。
「主、また二人で晩酌でもしよう。」
三日月宗近はそう言ってから、美しい所作で立ち上がりその場を去っていった。
残された男と鶴丸国永は、どこまでもマイペースな三日月宗近を見送ることしかできなかった。