第4章 夏の風景
顔を洗い幾らか冴えた頭で、拡声器を持って中庭へと向かう。
本丸は現在春である。
かき氷というからには、夏にした方がいいだろう。
そろそろ頃合いだと思っていたので、この機会にやっておくことにする。
男は下駄をひっかけ、池のそばにある一等立派な桜の木に触れた。
そこに意識して霊力を流せば、桜は散り、かわりに青々と生い茂る葉が木の枝を覆う。
柔らかな日差しから鋭いものに変わり、じーじーと蝉が鳴く。
春の香りは消え、夏独特の匂いが辺りを覆った。
男はその空気を肺いっぱいに吸い込み、拡声器のスイッチを入れ口に添える。
「あーあー、聞こえてるかー」
間延びした声が本丸に響く。
その声を聞いて、短刀たちがこちらへ集まってきた。
変わった中庭の空気を感じて、夏だ!とはしゃぐ声が聞こえる。
「聞こえてるようだな。あー、季節を春から夏に変更した。暫くはこのままだと思う。ああ、それと。三日月のリクエストでかき氷するから、食べたいものは大広間に来てくれー。」