第3章 閑話休題:山姥切国広
「山姥切の」
薬研藤四郎が眠た気な声で呼ぶ。
山姥切国広は天井を見つめたまま応えた。
「今日の大将変じゃなかったか?」
彼の問いに山姥切国広は天井の木目を数えるのを止め、薬研藤四郎の方を向いた。
「気づいてたのか」
「ああ、あんな顔されちゃあな」
その言葉を聞いて、そういえば演練の会場で主に探るような目を向けていた薬研藤四郎を思い出す。
「鶴の旦那が関係してるんだろうが、一体何があったんだか」
「あんたもそう思うか」
「あんたもっつーことは旦那もだな?」
「…主は鶴丸国永のことが好きだ。俺たちとは別の意味で。」
「でも鶴の旦那はそうじゃないだろう」
「何が言いたい」
「大将、失恋したんじゃないかってな」
失恋。
山姥切国広は口の中でその言葉を転がす。
そうだ、確かに鶴丸国永はそういう目で主のことを見ていない。
主のことを主として、或いは孫のように。
愛はあるが、それは色恋沙汰のものではない。