第3章 閑話休題:山姥切国広
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演練が終わり、その日の夜。
一騒動があってから、山姥切国広はいち早く与えられた寝室へ戻っていた。
同室の薬研藤四郎はどうやら湯浴みをしているらしく、まだ戻ってこない。
山姥切国広はため息を吐いた。
あれ以来特に主が変わった様子はないが、同時に心配なのは主の一期一振に対する態度である。
己の嫉妬で一期一振に暴挙を働くとか、無視するとか、そういう小さいことをする人ではないと分かっている。
分かってはいるが、では今日になって一期一振と主は他愛ない会話をしたかと問われれば否。
わざとではないだろうが、一期一振に対しての嫉妬を見てしまった山姥切国広からしてみれば、心配の種となり得る。
山姥切国広は、嫉妬や妬みといったものが単純なものではないと知っている。
思考の海に潜っていれば、襖が開いて薬研藤四郎が入ってきた。
そちらを見やると、薬研藤四郎はそれに気付いて小さな笑みを浮かべる。
「わりぃ、起こしたか?」
「いや、起きてた」
「そうか」
少し間をおいて敷かれた隣の布団に入る音がする。
そういえば薬研藤四郎と同じ部屋で寝るのは久しぶりだな、と思い至る。